【連載第4回】 負担が不要な擁壁工事を市が負担。3540万円はどこに消えた?


 狭山市の旧中央公民館跡地の売却をめぐり、巨額の税金(値引き)が不透明な形で動いた事実をご存知でしょうか。
「裁判で市が勝ったから問題ない」――市側はそのように幕引きを図ろうとしています。しかし、その裏で行われたのは、「文書を残さない密室での条件変更」「行われなかった架空の工事」「議会への虚偽説明」という、地方自治の根本を揺るがす異常な行政手続でした。

 私はこの問題をとことんまで調査し、議会で追求するとともに、裁判を起こしました。

 調査した内容からこの問題の経緯を振り返りつつ、市民の財産を守るべき市長と管理職が、いかにその責任を放棄したのかを明らかにします。

【事の経緯】 消えた3,540万円と「架空の擁壁工事」

① 当初のルール:「イエローゾーン対策は業者の自己負担」 

 市は旧中央公民館跡地を民間に売却する際、公募(プロポーザル方式)を行いました。この土地には土砂災害警戒区域(イエローゾーン)が含まれており、市は参加業者に対し「擁壁(ようへき)の撤去・新設工事は、用地を購入した業者が自らの負担で行うこと」と説明していました。そして平成28年12月、ある業者が優先交渉権者に決定します。

② 密室でのルール変更:「市が3,540万円を負担する」

 ところが翌年、住民説明会で「強固な一段擁壁にしてほしい」という要望が出ると、事態は急変します。

 契約直前の2月、市の担当管理職は業者と協議し、突然「擁壁の追加工事費として、3,540万円を市が負担する(売却価格から値引きする)」と決定し、当初の売却金額から擁壁工事費を差し引いた金額で契約したのです。

③ 議会での説明と発覚した「嘘」 

 市は市議会に対し、住民から強い要望があり「擁壁工事を行うため3,540万円を値引きして売却する」と説明し、議会の承認を得ました。 しかし後日、業者の工事許可申請書を入手・調査して驚くべき事実が発覚します。業者は「擁壁の工事」など行っていませんでした。より安価な「路盤面を引き下げる」という全く別の手法でイエローゾーンを解消していたのです。 しかし、市は差額の精算を一切行わず、業者は行ってもいない工事費分の利益を不当に得た形になりました。

【あぶり出される決定的な問題点】

 この一連の不可解な取引において、実務を取り仕切った管理職と、それにハンコを押した市長の責任は極めて重大です。

1. 担当管理職の責任:公文書主義と公平性の破壊

 意図的な「記録外し」の異常性 

 3,540万円もの条件変更を伴う業者との重要な協議を、管理職はすべて「口頭で行ったため記録はない」と議会で答弁しました。行政手続は文書に始まり文書に終わるのが鉄則です。意図的に文書を残さない密室での交渉は、業者との癒着を疑われても弁明できない公務員としてあるまじき行為です。

 公募(プロポーザル)制度への背信 

 最初から「市が3,540万円を負担してくれる」「擁壁を作らず路盤引き下げでよい」という条件であれば、他の参加業者はもっと市に有利な提案ができたはずです。特定の業者にだけ契約直前で極端に有利な条件変更を許したことは、官製談合に近い不公平な対応です。

2. 市長の責任:トップとしてのガバナンス放棄

 「市民の財産管理者」としての職務放棄 業者から提出された工事の見積書には、なんと社印も連絡先もありませんでした。しかも「概算金額」と書かれたその紙切れ1枚を根拠に、市長はたった1日で値引きの決裁印を押しています。適正な積算チェックや精算を指示しないのは、財産管理者として完全に機能不全です。

議会と市民を欺く行為の容認

 議会には「擁壁を作るから」と説明して値引きを承認させておきながら、全く違う工事が行われたました。これは議会の議決権を形骸化させ、市民を欺く行為といえます

 

「勝訴」が意味する地方自治の死角

 この問題をめぐり、私は住民訴訟起こしていましたが、結果は「敗訴」でした。 裁判所の理屈は「別の手法であれイエローゾーンは解消されたし、最低売却価格以上で売れているから、市に直接的な損害はない」というものです。

 しかし、これは「行政手続として正しかった」という免罪符ではありません。裁判所は「市の財布に穴が空いたか」しか判断できず、「議会が騙されたこと」や「密室で不透明な決定がされたこと」といった民主主義のプロセスは救済されないという、恐ろしい死角が浮き彫りになったのです。

 裁判に勝ったからといって、市長は何の反省も示さず、誰一人処分していません。 「密室で業者と条件を変え、文書を残さず、議会には違う理由で通し、予定と違う工事が行われても黙認する」 これが許されるのであれば、狭山市の行政にルールなど存在しないのと同じです。

  議会への虚偽説明の疑いがあるにもかかわらず、自ら調査しようともしない市議会にも重い責任があります。私たちは、この「消えた3,540万円と嘘の工事」を裁判の勝敗だけで終わらせてはなりません。市民の厳しい監視の目が、今こそ求められています。